これぞ出張マッサージの達人
原因はわかりませんが私は肩こりが酷く、既に中学生の頃から出張マッサージマニアのようになっていました。しかし私のコリを的確にほぐしてもらえることはほとんどなく、もっとここをこうして欲しいという強い想いによってか私のマッサージの腕ばかり上達して行きました。自分がマッサージされて気持ちの良い箇所がわかるため相手のコリのポイントもひと突きで当てることができ、親や友達からは賞賛の嵐でしたが私のコリについては誰も完璧にほぐしてくれることはなく、いつしか理想のゴッドハンドを持つマッサージ師を探し求めることも諦めていました。そして月日は流れ適齢期になった私も結婚し見知らぬ土地へと転居することに。田舎から都会へと急激な生活環境の変化に疲れていた私に夫がゆっくりしようと温泉に誘ってくれました。決して人気スポットではない鄙びた温泉なのですが人も少なくて穴場とのことで期待して行きました。到着するといかにも昔風の温泉。休憩所で寛いでいる客もお年寄りばかりです。しかしその時の私にはそののんびりとした雰囲気が心地よく温泉を堪能できました。そして入浴後休憩所で休んでいた私の目にふと飛び込んできた「出張マッサージ10分1,000円」の文字。ついふらふらと受付に近づくとお婆さんが「やってくかね?」と一言。愛想こそありませんがベテランの口調です。取り敢えず3千円を渡すと部屋の中に通されました。その後すぐにやってきたのが黒縁メガネのお爺ちゃんなのですが背筋もぴんとして足取りも軽快で医者が着るような白衣を身に付けています。なんとなく只者ではない雰囲気を感じつつ施術開始。その瞬間衝撃が走りました。流れるような手さばきで私の長年のコリをほぐしてゆく技はまさにゴッドハンドではありませんか。こんな人気のない温泉に隠れていたなんて出会えなかったはずです。そのまま「あー、うー」と気持ちよさのあまり意味のない言葉を繰り出しながら私出張料金3千円を支払いました。大変満足して帰途についたのですが、再び出向いた時にはその方はもういませんでした。今でもあのゴッドハンドに会いたいと思う時があります。本当に凄かった…。
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